和歌山城

上方街道・大和街道の出発地点で、城下町の正面入口。本町門の前は、広小路と呼ばれる巨大な空閑地となっていた。京橋門へとつづく本町通りは大手筋で、店が並び、人々が行き交う賑やかなメイン・ストリートであった。

現在、広小路の辺りは宅地となっているが、本町門の西側の道の屈曲はそのまま残されている。

本町五丁目にあった造り酒屋「新屋」で、重陽（ちょうよう）（旧9月9日）の朝、新酒を買い求める人々の様子。重陽は菊の節句ともいい、新屋では長命（ちょうめい）の酒「菊のした水」を販売していた。

本町五丁目は、城下町和歌山の大手筋である本町通りの中ほどにあたり、西側で旅籠町と接する。旅籠町の道筋はやや北に振る斜めの東西道であり、中之島村に通じる古い道の名残りではないかと考えられる。

西本願寺の鷺森御坊（現、鷺森別院）。永禄6年（1563）、浄土真宗の御坊が和歌浦御坊山（現、秋葉山）から鷺森に移転し、以後紀伊真宗の拠点となる。天正8年（1580）、「石山合戦」の講和により大坂から本願寺が退去し、以後約3年間ここが浄土真宗の本山となった。

天正期に建てられた国宝級の建物と享保期に新築された本堂は、昭和20年（1945）7月の和歌山大空襲で焼失した。

江戸時代後期の藩校跡地。五代藩主徳川吉宗が、正徳3年（1713）この地に藩の教育施設「湊講館（みなとこうかん）」を創建したのが始まり。藩主になる前の吉宗が、一時屋敷としたこともあった。寛政3年（1791）、十代藩主治宝（はるとみ）が藩校を再興し、「学習館」と名付けた。

明治17年（1884）、南方熊楠の父が南方酒造（現、世界一統）を創業。熊楠の友人の孫文が訪問している。

西ノ店の魚市の様子。城の東部広瀬付近にあった東ノ店がこの地に移り、西魚町となり、後に西ノ店と改称したという。近隣でとれた魚などが運ばれ、毎日魚市が開かれていた。

和歌山城の外堀（現、市堀川）の北側にあった町人地を内町（うちまち）といい、西ノ店もその一部である。西ノ店の東隣の万（よろず）町でも青物市が開かれ、大いに賑わったという。

和歌山城の外郭である三の丸（現、番丁）は、許可がない限り原則庶民が通行できなかった。このため、外堀に架かる寄合橋は、町人地の内町（うちまち）と湊をつなぐ重要な橋で、人々が寄り合うことから名が付いた。紀ノ川河口と和歌川をむすぶ北外堀には、人や荷物を乗せた小船が行き交い、堀沿いには船着場があり、大商人が店や蔵を連ねていた。堀は現在よりも広く、橋の東詰横には火見櫓（ひのみやぐら）が建っていた。

駿河町にある菓子屋。室町時代に京都伏見で「鶴屋」の名で創業。徳川頼宣（よりのぶ）の転封に従い和歌山に移る。5代将軍綱吉（つなよし）の娘鶴姫が3代藩主綱教（つなのり）に嫁ぐ際、名にはばかり「駿河屋」に改名。羊羹（ようかん）や「本」字を焼印した本ノ字（ほんのじ）饅頭（まんじゅう）が有名。

現在も同じ場所で営業を続けている。

新町にあった土井呉服店での誓文払（せいもんばらい）（旧10月20日）の大売り出しの様子。誓文払とは、商売でついた嘘（うそ）を祓（はら）い、許しを請（こ）う行事で、商店などは大売り出しをおこなった。新町は、徳川期に拡張した町人町である。

背景の河川は、右から真田堀、鈴丸川、北外堀で、現在は真田川、大門川、市堀川の名で呼ばれる。

水門（蛭子）神社の餅投げの様子。牛の舌のような形をした熨斗餅（のしもち）を投げるのが特徴。現在は11月23日に境内でおこなわれ、たくさんの人で賑わう。

祭神は、水門神社が蛭子神（戎様）、併設する吹上神社は大己貴神（大黒様）で、戦後は水門吹上神社として同じ社殿に祀られた。

京都へ向かう各地の起点となる橋が「京橋」。徳川以前の浅野家が城主の時代から、北へ延びる本町通りは和歌山城下の大手筋であった。橋の南詰にあった櫓門が、城の外郭である三の丸（現、番丁）への正面入口の京橋門。付家老（つけがろう）の安藤家と水野家の預同心（あずかりどうしん）が交替で番をしていた。南岸には石垣と土塁が続き、北の堀沿には船着き場があって、商人の店や蔵が並び、米市が開かれていた。

江戸時代には西外堀があり、西側の湊は町人町で堀沿いは賑わっていた。当初は湊片原と呼ばれたが、文化年間に昌平河岸と改称される。「昌平」とは儒教の始祖孔子（こうし）の故郷で、北端に藩校があったので名付けられたのだろう。堀の東側は城の外郭である三の丸（現、番丁）で、湊橋が架かる東詰にあったのが湊橋御門で、家老の久野（くの）家の預同心（あずかりどうしん）が弓・槍・鉄砲を備えて番をしていた。

和歌山という地名は、天正13年（1585）の秀吉の手紙に初めて登場する。それまでこの地は紀伊湊や雑賀（さいか）と呼ばれていた。紀ノ川河口は海上交通と河川交通の結節点で湊が発達したのである。各地の荘園から高野山に運ばれる物資はこの地を経由した。

江戸時代も城下町和歌山の湊として賑わい、たくさんの船が行き来した。特に吉野材などの木材の取引が盛んで、付近には材木丁がある。

藩立の医学校。寛政4年（1792）、10代藩主徳川治宝（はるとみ）が本町3丁目に創設。その後、城西の町人地である雑賀屋（さいかや）町に移った。天保年間（1830～44）には、施薬局（せやくきょく）を館内に設置し、庶民にも薬などを施している。

城の南西にある扇形の草原（くさはら）が扇の芝。西の道沿いには追廻馬場があり、流鏑馬（やぶさめ）が披露され、庶民がおにぎりや菓子を持って見物に来ている。

現在は、道路や市街地として開発され、当時の様子をうかがい知ることはできない。

櫓（やぐら）や白壁が続く中央の門が岡口門。築城時は大手であったが、浅野期の途中から搦手（からめて）門（裏門）となる。横の土塀とともに現存し、国の重要文化財。

手前の櫓門が、三の丸の入り口となる広瀬門。かつては外堀と土塁で囲われていたが、今は失われている。

大みそかに広瀬大橋を渡り、日前宮（にちぜんぐう）を目指す人々の様子。厄除（やくよけ）や祈願がある者は裸で腰にしめ縄を結び、手に刀をたずさえ、寒風の中を競って参詣（さんけい）し、しめ縄を奉納した。日前宮は、日前（ひのくま）、国懸（くにかかす）の2つの神宮を祀った、紀州の一ノ宮である。

大橋がかかる和歌川の両岸を埋め立てたことにより、現在は当時より川幅が狭く、橋も短くなっている。

城の南にあった弓術の練習場。京都にある三十三間堂（蓮華王院（れんげおういん））の縁側を模（も）す。三十三間堂では一昼夜弓を射続け命中数を争う「通し矢（大矢数）」が毎年おこなわれ、特に名手がそろう紀州藩と尾張藩の対決は注目の的だった。

西側の屋敷は、紀州藩家老久野家の上屋敷である。

射場は現存せず、跡地付近には県立博物館・美術館が建つ。

城の南東、岡地域の産土（うぶすな）神である「岡の宮」、「松生（しょうじょう）院」、「珊瑚（さんご）寺」の3寺社を描いている。

岡の宮には5代藩主で後の8代将軍吉宗（よしむね）の拾い親伝説が伝わる。社殿は昭和20年（1945）の空襲で焼失し、昭和25年（1950）に再建された。

国宝であった松生院の本堂も、焼失したが、現在復元されている。

大智（だいち）寺の参道にあった車坂神社の様子。祈願成就（きがんじょうじゅ）した者はお礼に鳥居を寄進（きしん）したため境内には数千基の鳥居があった。このあたりは砂丘で、根が地表から浮きあがった根上（ねあが）り松が見られる。

稲荷社は、車坂を登った道の北側にあったが、現在は向かいの南側に移っている。

近世の城下町で寺院を集めた一角を「寺町」という。防備面で弱かった南側を強化するため、徳川期に形成した。

徳川頼宣の正室を祀る報恩寺や紀州藩の軍学者名取正澄の菩提寺である恵運寺などが今も建ち並び、当時の面影を残す。吹上砂丘上にあった大智寺は明治期に廃絶し、跡地には浄水場が建っている。